塾生の声

一新塾卒塾生からのメッセージ

重光 喬之 氏
NPO法人両育わーるど理事長
「難病者の社会参加を考える研究会」
(脳脊髄液減少症の当事者)
一新塾27・29期卒塾
一新塾卒塾生アドバイザー

◎入塾前は会社員
→ 発達障害児の施設を支援で起業→見た目にわかりづらい難病の当事者のサービス立ち上げ→「難病者の社会参加を考える研究会」を立ち上げ・企業と協働・政策提言


「療育は両育プロジェクト」

20代半ばまでは、自分のやりたい事だけをやる日々を過ごし、対人関係では、自己防衛のため全ての関わる人に気を遣い、自分の勘定を抑えながら生きていました。若い頃の音楽イベント運営では、集客や収支にといった数字だけに目がいき、仲間に働きかけることもせず、「なぜ、スタッフは動かないのだろう」と不満に思うだけでした。仕事でも、自分の成績を上げる事だけが目標であり、仕事そのものの社会的な意義もわからなくなっていきました。

そんな私でしたが、バンドの相方に誘われて知的障害児・者の育成施設との関りを長年持つ事になりました。当時の私は「ボランティアは偽善」という先入観があり、福祉や障害について考えたこともありませんでした。

2社目の職場で働いている時に脳脊髄液減少症を発症し身体が激務についてゆけず、今まで出来ていたことが出来なくなった事へのストレスで髪の毛の大半が抜けました。治療のために休職をしましたが、リーマンショックの時期と重なり、復帰できず、自主退職。このとき社会情勢により自分だけでなく、多くの社員の人生がいとも簡単に左右されることに疑問を抱きました。これらがきっかけとなり、また、それまでの経験を生かし、ITを活用した環境関連の起業を視野に入れ、30歳の時の2010年に一新塾に入塾しました。

入塾後、自分の根っこを掘り下げていくことで、これまで福祉現場(ボランティア)で多くを学び、その魅力と同時に、多くの「もったいない」に気が付いていることを自覚し、入塾後一か月で取り組むテーマは「環境分野」から「福祉分野」へと大きく方向転換しました。一新塾の東京本科プログラムで機会を得て、仲間とプロジェクトを立ち上げ、仲間と現場に足を運びました。そこで出会った小学校中学年の自閉症のあるA君、療育を積み重ねてゆくと、次第に集団生活に慣れ、行動の制御もできるようになってきました。その頃の私は彼がもっと成長できるように指導的な関りをしていたところ、事件が起こりました。彼の声なき講義の頭突きを受けたのです。

私は彼の苦しみに思いを馳せ、寄り添うことの大切さを気づかされました。私も脳脊髄液減少症の痛みを24時間365日抱え、痛みそのものだけでなく、痛みによる苦しみを周囲になかなか理解してもらえない辛さと、その時のA君の辛さが重なり、より深い理解につながっているのだと振り返っています。

「療育」から生まれる「両育」。私の場合で言うと、彼らとの関りによって自分自身が「自己防衛の気遣い」から「相手との関係をより深めるための気配り」へ。「画一的な対応」から「相手毎の個に合わせた対応」に変化したのが、私にとっての「両育」です。日常での他者への緊張や警戒が薄れ、人とのコミュニケーションが気楽で楽しいものになりました。何よりも相手をもっと知りたい、理解したいと人に関心が持てるようになり、さらには「人嫌い」から「本当は人のことが好きだけど、それを認めたくなかった自分」に気が付きました。

一新塾の仲間と立ち上げた「療育は両育プロジェクト」は、療育施設の後押しを通じた児童の育成環境を目的に、翌年NPO法人化できました。「福祉現場と社会・企業の接点を増やす」ことが私たちの役割だと気づきました。メンバーや塾生との向き合いが、私に火をつけ、時に冷静な視点を与え、ビジョンが日に日にリアルなものとなっています。 

2016年には、脳脊髄液減少症患者向けのエピソード共有サービス「Feese」も立ち上げ、見た目にわかりづらい難病の当事者としてNHKハートネットTVにも出演。日経新聞でも活動内容が連載されました。

2018年に当事者・支援者・企業らと「難病者の社会参加を考える研究会」を立ち上げ、①実態調査、②理解啓発、③就労モデル作り、④アドボカシー活動を行っています。2021年に難病者の社会参加白書(PDF版)を公開。難病者の社会参加白書づくりを基礎に、制度の狭間に置かれた難病者の就労を通じた社会参加の流れを創り出す活動をしています。

2022年の第17回マニフェスト大賞では、「難病者の社会参加白書」を作成した活動が「グッドアイデア賞 優秀賞」。
難病者は、国内では現在およそ700万人存在すると言われおり、白書では、難病当事者と家族、企業と自治体へのアンケートを実施したほか、当事者のエピソードを盛り込み、難病者の多くが既存の制度の狭間に置かれたままになっている実態等を明らかに。これらの結果をもとに、新たなネットワークづくりや先進的活動に取り組んでいます。

2024年、一新塾卒塾生の山梨県議会議員の方に難病者の就労について議会で質問していただいたところ、山梨県は難病患者を対象にした職員の採用枠を初めて設けました。患者などでつくる団体によると、自治体の職員の採用でこうした枠が設けられるのは、全国で初めてだそうです。

10月14日にはNHKハートネットTVで「10月特集 働きたい~難病と企業の今」に出演します。(番組説明:原因や治療法が不明で、患者数が少なく、日常生活に多大な支障をもたらす病気「難病」。国が指定しているだけで341疾患あり、患者数は総計100万人を超える。国は2014年に「難病法」を制定して、医療費の補助や療養生活の支援などを図ってきたが、「就労」については対策が遅れていた。就労移行支援事業所の活動や先進的な企業の取り組みなどをヒントに、就労機会の拡大や、働きやすい職場について考える。)


重光喬之(NPO法人「両育わーるど」理事長)


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