2010/10
/5 【一新塾ニュース】第431号:
 塾生活動レポート 『大谷の大屋根プロジェクト』

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          一新塾ニュース〜今のニッポンを変えろ!〜
          【 第431号 】 発行日:2010年10月5日
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■ 塾生活動レポート
           『 大谷の大屋根プロジェクト 』
                      一新塾第25期「東京」本科  野上哲也

■【参加者募集】「第27期説明会&体験ワークショップ」2010年11月7日開講

         『“根っこ”を掘りさげたい人、集まれ!』

    ●東 京:2010年10月 6日(水)19:30〜21:40
             10月 9日(土)15:00〜17:30
             10月13日(水)19:30〜21:40
             10月16日(土)15:00〜17:30
   (参加予約)→ http://www.isshinjuku.com/03bosu/b2_sietumei.html

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メルマガ読者の皆さま、こんにちは。一新塾の森嶋です。

混迷の時代、私たちは将来ビジョンを描くのが難しいかもしれません。
加えて、組織の縦割りとピラミッド構造が、思考停止を増幅させます。
個人で話をすると創造的で柔軟な発想をする人が、組織になったとたんに
思考停止が起こってしまいます。

さらに、社会の枠組みをつくる作業は、政治家や官僚だけがやるものといった
役割分担が浸透してしまっています。国民はミーイズムに呑まれ、自分や家族、
一部の親しい仲間にしか関心が抱けずにいるのです。

しかし、全ての人は社会創造の作業に関わっていける権利があります。
この最も創造的で心躍る作業を私たちの手に取り戻したときに、
ビジョンを取り戻せるのではないでしょうか。
それは、新しいコミュニティーづくりであり、新しい地域づくりであり、
新しい国づくりです。

さて、今回は卒塾を一カ月後に控えた第25期生の野上哲也さんのメッセージ
をお届けします。野上さんは5名の一新塾メンバーとともに、栃木県宇都宮市
大谷町の、幕末に建てられたかやぶき屋根の古民家・渡辺家を維持継承する
ためのプロジェクトを展開中です。

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■■■■ 塾生活動レポート
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■■         『 大谷の大屋根プロジェクト 』
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■■■■                 一新塾第25期本科  野上哲也
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●一新塾に入る

 この夏、せみの声を聞きながら栃木でお茶を摘んだ。
お茶を摘むには少し季節外れだけれど一新塾のメンバーと地元の方と一緒に
お茶を摘んだ。そうして摘んだお茶が先日、紅茶になった。来年の初夏には
一番茶を摘みに行く予定だ。出来れば地元の子供たちと一緒に。
さて、僕らがなぜ栃木でお茶を摘むことになったのか。

 ぼくは、建築設計事務所で働いる。子供の時はケーキ屋さんになりたかった。
お店をどうしようと想像していたら内装の仕事に興味が出てきた。建築を勉強
しておけば建築・内装設計のどちらもできると知り合いの設計士に勧められ建
築学科へ入ることに。大学を卒業して将来どうしようとフラッとしていた時期
もあったが、やはり、設計が好きでこの仕事をえらんだ。(いつかケーキ屋さん
をという思いは今もある。)
働き始めて約5年、小さな事務所だが自由な雰囲気の中、プロダクトからホテル
まで様々なものを設計している。

 もちろんクライアントと向き合って、建物をつくっていくことはとても貴重
な経験だ。けれどその一方で、ビルの一室にこもりコツコツやっているデザイン
や設計が社会とどうつながっていくのだろうとふと疑問に思うことがある。

 建築家の仕事とは社会的な仕事っていわれて教育を受けてきた。しかし、
どうもその実感がない。今の世の中、僕が建築家として社会とどう関わって
いけるのだろう。そもそも、いったい今僕が生きている社会ってどんなだろう。
僕は、何も知らないではないか。これまでの環境の中で考えても、答えは見つ
からないだろうなということだけはわかっていた。自分の周りを広げていって
も出会わない人たちと出会ってみよう。そこで考えてみよう。そうして僕は
一新塾の塾生になった。

●プロジェクト立ち上げ

 僕が一新塾で立ち上げたプロジェクト、
 それは、栃木県にある茅葺の家の保存継承していくお手伝いをすること。

 古民家の屋根裏―そこには純粋な暗闇と光、静けさと重力がある―に魅せら
れて、大学院で古民家の研究をしていた。それを知る友人から、ある古民家の
調査依頼を受けた。(実測し図面を描く。資料を調べたり聞き取りをしてその
建物の来歴、特徴をまとめなどして建物の基礎的な資料を作成する。)
 茅葺の家を残していきたいけれど、いつ頃建てられたのか、どれくらい価値
があるのかわからないので調べて欲しいとのことだった。
 茅葺のみならず、蔵や門や庭、畑などを含めた景観がすばらしい。さらに、
今こうした古民家がどんどん減っている中で実際に住まわれていることも非常
に貴重だ。ぜひとも残って欲しいと感じた。

 調査の合間に、ご当主から茅葺を維持していくことの難しさをお聞きした。
住宅としての性能的な面、価値観の問題もあるが、なにより葺き替えの資金
確保の問題が茅葺維持を難しくしている。

 今では地域で唯一の茅葺の家。今年はお隣さんの葺き替えを手伝ったから
来年は家をやってもらいましょうといったコミュニティはもうない。相互扶助
のムラ社会が崩壊した現在、個人で専門業者に依頼し茅葺を維持していくのは
非常に負担が大きい。

 ご当主は”いいかたち“で残していければと言う。そのいいかたちとはいっ
たいどんな形なのだろう。これまで、調査・研究はしていたが、保存活動に
積極的にかかわった経験はない。しかし、何が出来るか具体的に動いてみよう、
そう思えた。

 建築マニアの僕だけで頭をひねってもいいアイデアは出てこないだろう。
建築を使い、維持していくのは決して建築の専門家ではない。もっと、違った
アプローチでものを考えてみたい。ちょうど一新塾のプロジェクト立ち上げの
機会と重なり、いろんな方と頭をひねろうとプロジェクトを立ち上げさせても
らった。

 地元の保存の会との話し合いを通じて、ムラ社会に代わる茅葺維持に協力し
てくれるコミュニティを作ること、資金確保の仕組みを提案できないかと考え
ている。

●『○○家茶』ブランドをつくってみよう

 その一つが家の前に昔からある茶畑から紅茶を作ること。

 今ある茶畑の手入れをして
 地域の子供に食育の一環で茶葉を摘んでもらう。
 地元の製茶工場で紅茶にしてもらう。
 パッケージデザインは子供の描いた茶摘みの絵日記で。
 地域のお店で、販売してもらおう。
 おいしい上に飲むと茅葺保存に一役買える紅茶として。

 こんなストーリーを持った紅茶を作ってみたらどうか。
さらに、

 お茶だけの手入れをするのは無駄が多いので、一緒に農業体験を始める。
農業体験にあわせて季節のイベントを開催する。大屋根の下で一緒に作業を
してお茶を飲みながらいろんな話をする。
 楽しんでくれる人たちがファンとして茅葺維持に協力してくれるつながり
になる。

 ハードとしての建築だけでなく、小さいけれど教育、雇用、農業、出会い
の場づくりといった色々なことをちょっとずつ含みながらこのプロジェクト
が進んでいく。茅葺の家が生き生きと地域の中である価値を持ちながら存続
していく。

 まだ、半分以上空想の話。個人の家であるがゆえに難しい点もある。どう
なるかはわからない。しかし、活動の中でお会いできた方にちょっとずつ
ヒントをいただき生まれたストーリーでもある。
 
 これから、ご当主やご家族、地元の有志、プロジェクトメンバーと相談し
ながら愉しく長く続けていける“いいかたち”を探っていきたい。

 また、こうした活動の中で何かモノが生まれるのであれば、そのデザイン
はしっかりと根っこをもったデザインになるのかなと予感しつつ、建築家の
職能についても考えていきたい。

 


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