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一新塾ニュース〜今のニッポンを変えろ!
【第206号】 発行日:2005年9月27日
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目次
■ 埼玉県志木市行政視察報告 宮田久司氏(一新塾第12期)
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メルマガ読者の皆さま、こんにちは。事務局の森嶋です。
さて、この3連休は、23日に名古屋、24日に大阪、25日に東京と
一新塾説明会で奔走しておりました。
名古屋説明会では、長野県や福井県、そして、アメリカからもはるばる
お越しいただき、後半は教育改革をテーマに、自らの体験や取組みを
ご紹介いただきながら議論が白熱しました。
また、自らT字型人間になって社会を変えたいとの思いで本科で入塾
いただいた熱い思いの学生さんもおりました。
大阪では、
「仕事をしながらでも社会変革できるんだ!」
「起業の準備をしていたが、地域の役に立ちたいという視点が欠けて
いたのでは?」
「Plan→Do→Seeを自分だけで回そうとしていた」
などのご感想をいただきました。 参加された皆さまには、
「組織のミッション」から「個人のミッション」を生きる という言葉
が響いていたように思います。 さて今回は第12期の宮田久司さんより
2005年8月、に一新塾名古屋組メンバーの近藤裕己さん、山下智也さんと
ともに行かれた埼玉県志木市の現場視察報告をご紹介させていただきます。
なお、10月3日のシンポジウム『公民起業家』(詳細下記)にて志木市、
横浜市、霞ヶ関からゲストをお招きして、最新事例報告をいただきます。
また、前志木市長の穂坂邦夫氏には第17期講師として一新塾にお越し
いただく予定です。
塾生活動レポート□■■■□□■■■□□■■■□□■■□■■□
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□ 埼玉県志木市行政視察報告
■■■□□■■■□□■■□□■■□■ 一新塾第12期 宮田 久司
● 志木市の事情
志木市は人口約6万8千人、面積、人口ともに小さな都市である。
財政力指数は0.881で悪すぎる訳ではないが十分ではない。
補助金削減などの危機感、住民投票による市町村合併の否決などの事情も
含め、志木市では自立の道を探り、試行錯誤している段階であると感じた。
特に前市長の穂坂氏の任期中に多くの条例案が提出され、そのいくつかが
実際に可決、実行されている。
その変革のスピードは他市町村をしのいでいると言っても間違いは無い。
政策審議室だけでも年間約240件もの視察が訪れるとの話が先進性を
物語っているが、実際に話を聞く事でさらにそれを実感する事ができた。
● 市民が創る市民の志木市
上記の表題は穂坂前市長のキャッチフレーズだ。
三十数年前に建てられたという市役所の3階の会議室に案内していただき、
用意されていたいくつかの資料を目にし、これはすごいと感じた。
まず、『「市民主体の自治」に向けて』というA3一枚の図。
詳細はあとで述べるがここにエッセンスが詰まっている。一つのコンセプト
をもとにした、包括的なアプローチが図にまとめてあり、それをもとに
実行されている。
さらに『志木市・地方自立計画』という冊子には、自立にむけた市民主権、
地方自治及び志木市における現状認識と包括的な実行計画がまとめられ、
そのいくつかは実行されている。(なかには議会で否決されたもの、
新市長にかわり見直される可能性のあるものもある)
● 市民参画の行政というテーマの継続
そもそも志木市には前市長のさらに前の市長(4期12年務めた)の段階
から「市民参画」をテーマとしていた。そのため、職員の意識にも市民と
いう視点が早くから根付いていたという土壌がある。その上で穂坂前市長
の『「市民がオーナー、市長はシティーマネージャー」に基づく
「市民が創る市民の志木市」』という基本方針と実行力によって一気に改革
は押し進められた。
これらの改革の具体的なアイデアは基本的には行政内部から定量的にだされ
たものであり、職員のモチベーションや能力による貢献も大きい。
「ワンコイン交流会」や「ウィークリー講座」等と言った市長と職員の
コミュニケーションの場を積極的に設けたことも、その文化を浸透させる
ための大切な方策なのかもしれない。
穂坂氏の任期である4年間に、これらのアイデアを生み出し実行する仕組み
をうまく構築できたことが、ここまでの改革を進行できた一つの鍵でもある
ように思われる。
7月から長沼新市長が誕生したが、市民参画と地方の自立という視点は継続
されるとのことである。
● 志木市住民自治基金条例案→否決
長野県泰阜村寄付による投票、千葉県市川市、愛知県高浜市など予算の
(あるいは住民税の)1%の使い道を市民が決めるという、税金の使い道を
市民が決める動きが増えてきている。
志木市においても平成16年度に寄付と市民税収の1%相当額を上限とした
市民が税金の使い道を決める制度が市長によって提案された。
市税の1%の使い道に関しては、無作為抽出の市民にいくつかの政策テーマ
を選択してもらい、それを実際に反映させる仕組みである。
しかしこの条例案は、議会の反応が悪く、一度12月議会では取り下げ、
3月議会において否決された。
このように、志木市では多くの条例案が否決されてきたという。しかし、
コンセプトに基づいた多くの条例案の中のいくつかは、実際に承認され、
施行されている。
ウィントン・チャーチルではないが、あきらめずアイデアを出し続ける事が、
ブレークスルーの重要なポイントであるのかもしれない。
(志木の政策の詳細は下記のアドレスから→
http://www.city.shiki.lg.jp/html/welcome/welcome05.html)
● パートナーシップ事業について
志木市では今後職員数を50名にまで減らすという方針がある。
この背景には、財政圧迫によるコストカットの必要性のほか、少子高齢化と
団塊世代の職員の大量退職という人口動態によってもたらされる職員の激減
に対抗する方策でもある。
現在の職員の担っていた仕事の多くは、市民のパートタイムによるワーク
シェアリングによって代替させる計画だという話だ。
現在の職員1人分の作業を市民パートナー1.5人でこなす目論みで、
現在実際に市役所の窓口などいくつかで実施されている。
これにより年間約820万円で雇っていた職員を、年間約160万円に
抑える事が可能である。
既に約3億9千万円の削減を実現しており、今後20年間で約300人、
67億円を削減する目論見である。 これらも職責を明確にすれば、どの
都市においても展開が可能なのではないか。
● 市民が予算を作成
市民が創る市民の志木市においてパートナーシップ事業とともに二つの柱の
一つとして存在するのが、市民委員会という組織である。市民委員会自体は、
参加は市民の公募により関心ある分野の部会によって 構成された、市民が
主体となった組織である。
この部会は大方、行政組織の部署、予算の款に対応しており、これらの部会
が実際に予算をチェックし、策定する作業を行っている。既に昨年度約4ヶ月
のプロセスを経て行われている。
必要かつかなり詳細な情報、予算の根拠は行政がすべて情報公開し、策定
された予算は、市長による予算編成によって反映される。
反映されなかった予算内容に関しては、その明確な理由、根拠を説明しなけ
ればならず、市民委員会にとっては大方合意のできる状態を実現する事が
可能で、徹底している。
市民委員会の構成人員は、第一期で252人、二期目に入り139人となって
いる。問題は、予算編成に約4ヶ月、毎晩集まって議論しなければならない事
で、これは市民にとっては大きな負担となる。
問題も存在するが、ここまで来れば見せかけだけの市民参画とは言わないだろう。
● 公共事業市民選択権保有条例
志木市では1億円以上の公共事業を市民が決める制度を全国初で導入した。
市民審議会を通して、計画段階からそれらの事業の妥当性を市民が評価し、
それを反映させていくもので、ここでも情報公開と説明責任の原則と、
市民参画の理念は貫かれる。
小さなコストの切り詰めはどこの自治体でも取り組んでおり、むしろ大きな
事業の意思決定に慎重さと合意が欠落している場合があるというのをかつて
ある自治体の職員に聞いたが、この条例はその点を補完している。
市民審議会や市民委員会といった組織は一方で関心の高い市民しか参加は
しない。その点を職員の方も認識しており、無関心層の意識を高める事も
継続的な課題として持っているようである。
● 議会の役割
前市長から生まれた様々なアイデアのいくつかは議会の承認を得る事が
できず、日の目を見る事ができなかったものも多くある。 情報公開と
説明責任が徹底され、市民委員会や市民アンケートなどの直接市民が
政策の意思決定に影響力を持つことになると、市民の代表としての議会
の役割があまり重要でなくなることにつながる。
志木市の事例でも、議会軽視との反応から市長と議会との関係も良好では
ないという。ただ、いずれの政策も条例という形で導入している。従って、
意思決定の最終承認をするのが議員である以上、重要な機能の一端を担って
おり、その職責が法律によって保証されていることは確かである。
しかし、どれだけ大きな役割を発揮できるかは市政との競争であり本人の
努力次第でもあると思われる。
また、人数が適正か、任務に対する評価は十分かと言えば疑問でもある。
今後の地方の直接民主化の流れにおいて、政策立案と意思決定のプロセス
のなかで議員の役割と職務を見直す必要がでてきていることだけは間違いない。
● ローカルマニフェストと総合計画との連動
志木市ではローカルマニフェストの導入にも積極的で、行政内部から
マニフェストと市の総合計画とを対応させ、整合させる事ができるように
しようとするアイデアも出たという。 これは、結局実現できなかった
ようだが、もしこのような仕組みができたとすると、それは大変画期的な
ものであると思われる。
● 志木市が基準
今日先進的な自治体だといわれ、確かに様々な革新的な試みがなされて
いるという点では日本の他市町村と比較するとその通りであるのかも
しれない。
それは、先にも述べた通り志木市の首長を始めとした行政が、一つの
スローガンのもとに、多面的な実践のためのアプローチを実践した結果
であり、その努力の結果であるとおもわれる。 しかし、どこの都市に
でもスローガンとそれに基づいた実践はあるはずだ。やはり根本的には、
「現実に立脚しているか」「真剣にスローガンの実現を追求しているか」
「民主主義と市民の視点に立脚しているか」「それを、文化や仕組みと
して定着させているか」といった、いくつかの姿勢に根ざしていると
いえるのではないか。
逆に、以上の条件を満たしていないのは行政の職責として怠慢であると
言える。今日まで、多くの行政がどれも似たり寄ったりで、皆をアッと
言わせる市町村はきわめて少ない。
今後、志木市の改革への取り組みなどに見られた特色を当然のレベルと
して各市町村においても実践されていかなくてはならない。
今日の財政赤字のなかの交付税削減への危機感、国力の衰退への危機感、
既得権益の不条理などが志木市を自立への動きへと駆り立てた要因である
事を考えれば、その必然性は確かであると言える。
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