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           一新塾ニュース  第53号
           発行日:2002年3月8日


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「尾身幸次 科学技術政策大臣への政策提言」

8期ビジョンコース
経済産業政策チーム 松江英夫

●芯の通った政策通

尾身幸次大臣への政策プレゼンテーションは、氏の専門領域のひとつである知的財産政策について提言した。尾身氏の印象は、事前にお渡ししていた資料を丹念に読み込まれる程に誠実で、かつ大衆に迎合することなくご自身の基準でストレートに意見を語られる“骨太な方”であるとのものであった。左右の判断がつかない抽象的な表現が多い昨今の政治家の中で、政策レベルで次々と具体的な賛否を述べられたことは新鮮であり、かつ説得力に富んでいた。まさに“芯の通った政策通”というのが氏の表現として当てはまると思う。

「投票率が低かろうと投票に行かない人に政治を論じる資格はない。」そうばっさり言い切るなど、権力の中枢に身を置きつつも合間に個人的見解を大胆に表明するあたりは氏の姿としてとても特徴的であり、我々にとっては刺激的で嬉しくもあった。政策プレゼンテーションの場で、真正面から政策論を戦わせることのできる数少ない政治家のひとりと対話し、政策が持つ現実の重みとその醍醐味を感じられたことは大きな収穫であった。

●政策を考える2つの視点

尾身氏との対話を通して、有意義な経済政策を考える視点として「金の流れをどう作るか」「権利の主体をどこにおくか」の2つの視点が必要であると痛感した。言い換えるならば「国家としてのお金(税金)をどう効果的に使うか」「民間にどこまで権利の自由度を認めるか」ということである。

例えば今回の知財政策のケースでは、尾身氏は米国のバイドール法案の例を引き合いに出された。「民間の基礎技術に対する研究費の大半を国家が負担し、そこで共同開発したものの所有権を最終的に民間企業に認めることで、その後市場での産業が活性化し国家経済レベルが向上した」といった仕組みを例えての話である。

いわば政策というものは、法律上の権利・義務関係の変更のみならず、その結果として民間の市場原理に委ねた際にどのように金が流れ、また増えてゆくのかというトータルなメカニズムについての洞察抜きには語れない、そのことに改めて気づかされた場であった。

●小泉内閣の行方

当日は政策プレゼンテーションの後に、尾身氏の講演並びに質疑応答が行われた。尾身氏は「小泉改革と科学技術立国論」というテーマで講義をされた。氏は日本の課題を5つの構造上の特徴から分析し、現状をキャッチアップ時代からフロントランナー時代への突入と評された。そこにおいては、単に真似するだけでなく、クリエイティブに自ら道を切り開くことが求められると力説すると同時に、米国流の自由競争がなじまない一方で、グローバル化のさなかで日本流に力を発揮できるあり方を確立することが急務との認識を示された。

その理想像を実現する道筋の基本原理は、マクロ的には「自由主義、資本主義により忠実であること」であり、個人レベルでは「自助・自立の精神の尊重を貫くこと」であり、それがまさに小泉改革の根本思想であるとの意味を強調した。「改革」という言葉がイメージ先行になりがちな小泉内閣であるが、尾身氏の明快な論理において、その現状と行方がより深く理解することができた。その証拠に、講演の後には質問をする人が後を絶たず、多大な質問の嵐に予定時間ぎりぎりまで氏が対応を余儀なくされた状況からも明らかであろう。それは氏の発言に対する興味深さと、小泉改革に対する関心の現れであるとも言い換えられると思う。

小泉改革の成果について、氏は「ここ数十年間の中でこの1年は驚くほどのスピードで改革が進んでいる。国民にそう見えないのはただマスコミが評価しないだけだ。」と断言された。改革の成果は結果によっていずれ評価されることであるが、経済構造改革の中心的役割を担う科学技術政策の第一人者として、尾身氏が今後とも国民の視点に忠実にかつ骨太に改革に邁進されご活躍される ことを期待したい。