一新塾ニュース 第30号 発行日:2001年7月27日 「VRとVS向上による政治の構造改革」 松田智生(コンサルティング会社勤務) 註)VR:(Voter Relations=有権者への情報提供) VS:(Voter Satisfaction=有権者満足度) 1.政治の真の評価基準は? 参議院選挙直前である。小泉内閣の構造改革に対する国民の期待度は非常に高まっている。今回の参議院選挙で現政権、各政党、各議員への評価が問われることになる。 選挙を前にしてここで考えてみたい。 これまで我々有権者は、選挙前にテレビ、新聞等マスコミを賑わす報道に過度に振り回されてはいなかったかだろうか?前回の衆議院選挙では、失言やスキャンダルばかりが争点になっていたように思える。 現在有権者にとって候補者を選ぶ判断材料や評価基準が少なすぎるので、選挙直前にマスコミから出てくる議員のスキャンダルや失言あるいは内閣、政党支持率に左右されてしまう。 「構造改革断行!」「無党派の風をわが選挙区にも!」「〇〇疑惑に鉄槌の一票を!」といったスローガンも結構であるが、本当に重要なのは、各議員が前回の選挙時にどのような公約を掲げたか、その公約・目標をどの程度達成出来たか、達成する為にどのようなプロセスを踏んだのか、あるいは何故達成できなかったのか、今後はどのように対応してゆくのかといった「議員自身の目標管理と有権者への情報開示」ではないだろうか? 特に立法府の代表である国会の議員立法への取組みは重要なポイントであろう。こうした情報開示がなされれば、有権者は「地に足のついた」投票をすることが出来る。 有権者への情報提供については、積極的にホームページを活用、地道に国政報告を行っている議員はいるものの、民間企業のIR活動と比べると極めて遅れていると言わざるを得ない。 少ない議員からの情報発信→客観的評価基準の不在→政治への関心低下→投票率の低下といった悪循環のままでは、政治離れが一層深刻化することが懸念される。現在の政治に対する期待が一過性の盛り上がりに終わってはならない。 2.評価基準の必要性〜VR活動(Voter Relations)による議員のアカウンタビリティ 向上へ およそ人間の行動には、意思決定を促す評価基準が存在する。 経営の世界では経営者は投資家・株主に対してIR(Investor Relation)活動を通じて経営状況の説明、売上や利益の達成度、環境・リサイクルへの取組み等の情報開示を行っており、こうした情報が投資家、株主の評価基準となっている。これを政治の世界におきかえてみよう。 経営者=議員、そして株主・投資家=有権者と仮定すると、経営者たる議員は株主・投資家たる有権者に対して配当の義務があるはずである。また公約の達成度が有権者にどういった利益をもたらしたかを説明する責任がある。つまり議員の公約の達成度、その具体的なプロセスの開示が有権者の評価基準になる訳である。これまでマスコミ、政治評論家が有権者に対して伝えてきたのは、政党や派閥の離合集散、大臣と官僚との対立、知事と議会の軋轢、有力議員同士の会合といった政局であり、本来有権者が知り得るべき、自分達が選んだ議員が公約をどの程度達成できたか、そのプロセスは、達成出来なかった場合の改善方策は、という情報をほとんど伝えられていない。とどまるところ有権者の投票行動での評価基準はテレビや新聞、週刊誌の見出しに振り回されているのが実情ではなかろうか? IR(Investor Relation )とVR(Voter Relation)の概念は以下のようにまとめられる。 【経営におけるIR活動】 <経営者のアカウンタビリティ> → 経営ビジョン、中期計画、事業計画、売上・利益の目標設定、達成度、株主への配当、利益還元、顧客満足度の向上、環境、リサイクル対策、企業市民としての地域貢献 <株主・投資家> → 客観的な評価基準、指標を入手、配当、利益還元(短期・長期)、経営活動の チェック、監視、新たな投資先の選定、投資市場活性 【政治におけるVR活動】 <議員のアカウンタビリティ> → 政治ビジョン、公約、政策、具体的事業、進捗状況、達成度、有権者への配当、利益、地域での取組み(選挙区、広域圏、国家、 国際社会での取組み)分野での取組み(教育、医療・福祉、年金、社会資本整備、環境、経済対策他) <有権者> → 客観的な評価基準、指標を入手、配当、利益還元(短期・長期)、政治活動のチェック、監視、新たな投票先の選定、投票率向上 3.有権者の満足度(Voter Satisfaction)向上による意識改革へ 企業において顧客満足度の向上は重要なテーマである。 政治における顧客満足度はどうであろうか?有権者を「議員にとっての顧客」と捉えた有権者満足度( Voter Satisfaction)調査は、現在体系的に取り組まれていないが今後重要なテーマであろう。これは企業で行われている顧客満足度(CustomerSatisfaction)調査のように、議員に対する有権者の満足度(Voter Satisfaction)をアンケートやグループインタビューにより調査するものである。 この有権者満足(VS)調査により、議員の公約に対する有権者の「期待度」と「満足度」が明らかになり、そのギャップを把握することが出来る。つまり「期待度が高いのに満足度が低い領域」、「期待度が高く満足度も高い領域」、「期待度が低い割には満足度が高い領域」、「期待度も低く、満足度も低い領域」について有権者の現状を認識出来ることになる。 例えば以下のような例が想定されよう。 1.ある議員が道路、港湾等の社会資本整備を公約に掲げていたとする。しかしながら、有権者の期待するのは社会資本の整備ではなく、医療福祉分野の充実であった。しかもその満足度は低い。 2.ある都市部では、「子供がいる共働きの30代の有権者」が期待しているのは、充実した託児所の設置とより質の高いサービスであるが、期待度に比べてその満足度は非常に低い。 3.最近公共事業の見直しが注目されているが、実際ある地域では道路、ダム等の公共事業、社会資本整備への期待度が非常に高く、期待度に比べてその満足度は低い。 このVS調査は議員の意識改革や今後の政策立案の再考に寄与するだけでなく、アンケートやグループインタビューを通じて、有権者が議員に対して一体何を期待するのか、その満足度はどうかを振り返ることにより、有権者自身の政治に対する意識改革につながることにもなる。つまりマスコミに踊らされない地に足のついた議員評価につながるのである。 4.VRとVS向上による政治の構造改革 経営の世界で経営者が常に売上高、利益、顧客満足度、株価といった多様な指標に評価されされるように、議員も多様且つ客観的な判断基準によって有権者の評価を受けねばならない。現在の日本政治において、有権者へのアカウンタビリティはあまりに軽視されてはいないだろうか。 企業経営に投資家へのIR活動(Investor Relations)が重要であるように、政治の世界においても有権者への情報提供すなわちVR(Voter Relations)と有権者の満足度、VS(Voters Satisfaction)が今後一層重視されるべきである。企業では常識となっている目標管理制度や実績評価制度といった仕組みは、地方自治体や中央官庁でも導入されつつあり、その情報開示も進んできている。この流れを政治において有権者への情報提供(VR)、有権者満足度(VS)の向上にいかにつなげてゆくか、今後注目されるところである。政治自身の構造改革の為に。 ■編集室より 松田さんは現在一新塾第8期アドバンストコースを受講中。「議員の目標管理制度、公約達成度をチェックするシステム」を構築したいと入塾を決めました。 一新塾ニュース編集担当 近藤芳樹 |
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