一新塾ニュース  第49号
発行日:2002年1月25日



「JOBスタイル変革コースに期待するもの
〜協働活動のための創造的スキル・能力」

平野 崇雄(一新塾第9期生)

1.いわゆる〈会議〉とは

 どのような組織・グループにおいても会議・交渉・意思決定は行われる。そのプロセスでは議論を重ねることでコラボレーションし、それをどうマネジメントするかが最も重要である。
 にもかかわらず〈会して議せず、議して決せず、決して行わず〉といった風土を感じる人が多い。〈米国の会議が問題解決の場であるのに対して日本の会議は問題共有の場だ〉と喝破したのはドラッカーであった。日本の会議が非効率・非生産的であることは今に始まったわけではないが、あきらかに〈日本的工業社会型の仕事のやり方〉が時代の流れに乗り遅れている。慶應義塾大学の妹尾堅一郎教授は〈知識・情報社会に求められる会議とは、課題を設定したり吟味できる創造的な会議、あるいは知を新たに生み出す会議である〉と指摘する。加えて日本には特有の風土や歴史に根ざした独特のメンタリティがある。弊害も多いが、暗黙の了解・あうんの呼吸といった日本的コミュニケーションや恥をかかせないといった文化があり、人間関係を円滑にする場合もある。
 問題なのは、個々人の経験・アイディア・意見はバラエティに富んでいるのに、それらをうまく引き出し全体としてコーディネートできないところにある。なぜプロジェクトがうまくいかないかを考えると思いあたることが多い。

2.〈共生型社会〉に向かって

 評論家の立花隆氏は〈先端的創造的なモノはつねに異質同士のぶつかり合いや混じり合いの中からしか生まれない〉という。社会に目を転じれば、20世紀は二項対立や二分法思考といった〈分離のモデル〉が支配的であった。たとえば〈経済〉が成長するほど〈環境〉が悪化するといった二律背反の悪循環を生み、両者はつねに対立概念の関係にあったが、21世紀は環境経済といった〈統合のモデル〉が急がれている。この流れはあらゆる分野で加速度的に進む一方、個々人は社会が成熟するに伴い、家庭・職場・趣味やレジャー以外に地域コミュニティやNPO活動など公共性・文化性の高いものに関心を向け、行動するようになると考える。すなわち〈共生型社会〉の進展であり〈ライフスタイル〉の変革である。職場などにおける同質同士のもたれ合いから、異質同士の積極的な交流が求められるのは必然といえよう。

3.4つの目標設定

 前置きが長くなってしまったが、そういう時代に向かっては自己と他者、自己と社会の関係を深めるためのスキル・能力がこれまで以上に必要になると考え、次の4つの目標を設定した。

(1)自分に気づく能力
 最も基本的なスキルで、自分自身をより広くより深く理解できる能力。自然の自分を表現できる能力。より本来的な自分の能力を発見し、他者との自然な関わりを可能にする。

(2)対人関係能力
 効果的な対人関係形成能力。コミュニケーションスキル。対人感受性。他者との葛藤をリアルに受けとめ、それを乗り越えて他者と健全な対人関係を形成できるスキル。

(3)集団内におけるリーダーシップ能力
 グループの中で起きる諸々のダイナミックスを診断し、効果的な役割行動のとれる能力。集団に対する感受性。集団に対する診断能力。集団に対する介入援助能力。意思決定能力。

(4)集団間におけるリーダーシップ能力
 ある目標を指向する2つ以上のグループが関係をもつとき、グループ内やグループ間に起きやすいことを理解し、効果的に〈競争→葛藤→協働〉へもっていく能力。

4.JOBスタイル変革コースに期待するもの〜協働のための創造的スキル・能力

 4つの目標を打ち立てた時、たまたま〈JOBスタイル変革コース〉に出会った。このコースはワークショップを中心に、ビジネス一般に必要とされる〈ベーシックなスキル〉と市民活動などに広く応用できる〈実践的な手法〉の両方の体得を目標とする一新塾ならではのユニークなものである。このカリキュラムなら4つの目標を同時に追究し、かつ〈協働活動のための創造的スキル・能力〉の向上に役立つと確信し、今後の展開を楽しみにしている。
 蛇足になるが『なんとか会社を変えてやろう』の著者柴田昌治氏は、日本企業の欠陥の一つは〈気楽にまじめな話ができる場〉がないことだという。たしかに〈気楽で非まじめな場〉はあるし〈気楽でなくまじめな場〉も多い(その最たるものが会議である)。一新塾は〈気楽にまじめな話ができる場〉として大いに活用していきたい。