一新塾ニュース
4月25日号(創刊号)

【第1回テーマ】 「台湾総統選挙」

「台湾の将来を決定する選挙に民間の人たちはどういう思いでいるのだろうか?」ということで訪れた台北ですが、実際に来てみるとそんなものでは済まされませんでした。台湾人の台湾の将来に対して抱く想いは、これまでの辛酸の年月を重ねることによって、それぞれの心に深く刻印されたものです。その刻印された想いは群集の熱狂の渦と化して私たちを圧倒しました。以下現地レポートです

<台湾総統選挙見学報告>

3月18日の台湾総統選挙当日、一新塾卒塾生有志と12名で台北の地を訪れていた。その日の昼食は、一新塾の講師、金美齢氏と「街道をゆく〜台湾紀行」(司馬遼太郎著)に登場するサイコンサン氏にご招待頂いた。招かれたレストランは、4年前に初めて金氏が李登輝にお会いしたという記念の場所だった。両氏より、台湾の歩んできた道のりをお話頂いた。国民党独裁時代において、戦前から台湾に住む「本省人」が反抗すれば、投獄されたり殺されるといった苦難の道だった。蒋介石に迫害された様については、「信じる信じないの前に、想像が及ばない」とのことであった。サイ氏の「昨晩の陳候補の集会の様子をTVで見ながら、一晩中泣いた」、金氏の「台湾の将来は、今日の選挙で台湾人が答えを出します」の言葉が強く印象に残っている。本日、民主的な選挙によって政権を選べる日を迎えたことに両氏は胸がいっぱいの様子であった。

選挙の背景について述べれば、今回の選挙の意味の一つには、外省人と本省人との対決という構図があった。本省人とは戦前の日本統治時代以前から台湾に住んでいた人、外省人は戦後大陸から国民党とともに台湾に入った人たちである。本省人は長く、外省人の圧制の中に合った。政府の要職には就けず、反抗すれば投獄、処刑された。47年の228事件では、国民党に抑圧的政策に講義した市民デモに当局が発砲。これをきっかけに2万8千人の死者を出し、これ以降1987年まで40年間に及ぶ戒厳令が敷かれることとなる。三候補者では、宋楚瑜は外省人、国民党の連戦は父が本省人、母が外省人、陳水扁は生っ粋の本省人。(ちなみに李登輝も本省人)

もう一つは、一つの中国の考え方であるが、北京政府と国民党と民進党とで解釈がそれぞれ異なる。北京政府の考え方は「一つの中国は中華人民共和国」で宋楚瑜の考えがこれに近い。国民党の考えは「一つの中国とは中華民国」(実質支配をしていない中国大陸やモンゴルまで含む)これが連戦。そして、民進党の「中国は中国、台湾は台湾でで一つの中国」これが陳水扁と3候補者の立場が明確に異なる。

一般の人たちにとってこの選挙は自らの人生の重大事と捉える人が多かったようだ。投票日の数日前から一睡もできず病院にいった人が多かったということを聞いた。テレビで選挙結果が発表された時公務員の方たちと食事をしていたが、国民党が敗北した瞬間、彼らの凍りついた表情は今も脳裏に焼きついている。また、今回は人々の勇気も試された選挙であった。台湾の80%以上が本省人である訳だが、これまで、本省人が虐げられる制度にこれまで「ノー」といえば満足に暮らせないという状況があった。そして、中国は独立派が総統になった場合、すぐ武力行使に踏み切る可能性まで言及した。そのことを、新聞もテレビも大々的に報道した。戦争を脅える人たちに何人も出会ったが、最終的に、選挙によって民主的かつ平和的に政権交代を実現させ、みごとに“民主政治の成熟”を証明した。

民進党の陳水扁の勝利となった台湾であるが、発展のための試練は今後も続く。

3月18日、河野外相は「台湾をめぐる問題が海峡両岸の直接の当事者間の話し合いにより平和的に解決されること、そのために両岸の対話が早期に再開されることを期待する」との談話を発表。この談話は、例によっての事勿れ主義だったのか、日本の当事者意識が全く感じられない。台湾をはじめとする関係各国に対して影響力ある立場にいるという責任を考えれば、どこかで、日本としてのスタンスやビジョンを明確に表明する義務がある。

今後、日本が世界でもっとも親日である台湾とのパートナーシップをどうしていくべきか?私たちに課せられた課題である。

政策学校「一新塾」マネージャー 森嶋伸夫

 


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